ひとりぼっちの上司と私
店の前で鉢合わせした時よりも気まずさの度合いが増している気がするが、その空気を断ち切るかのごとく、個室の襖がノックされて店員がビールを持って来てくれる。
「とりあえず、乾杯します……?」
「そうだな。……じゃあ、運命のいたずらとしか思えないこの偶然に」
お互いにジョッキを持ち、須田さんが自虐するように言ったのを合図に、軽くぶつけ合う。
色々な衝撃はあったけれど、喉を滑り落ちていくビールはとても美味しくて、疲れが癒されていく。
須田さんは一気に半分ほど飲み干すと、再びタブレットを手に取る。
「俺は二杯目を頼むが、加納はどうする? 料理も頼みたいものがあれば好きに頼んでくれ」
「じゃあ、適当に入れますね。……マグロのお寿司は最後ですかね?」
あまり聞かれたくないだろうかとも思うが、ここは彼のために選んだ店だ。せっかくなら、ご所望のマグロを美味しく食べてほしい。
「……そうだな。最初はもう少し軽めのつまみにしよう」
苦笑しながら頷いた彼が、一品料理をいくつか適当に選んで注文する。
二杯目のお酒はお互いに日本酒を選んでいた。
私はもともとお酒に強い方だけれど、須田さんは『酔わずにはいられない状況だから』と困ったように笑っていた。