ひとりぼっちの上司と私
彼が仕事のできる人だとはもちろん知っているけれど、前の勤務先が遠山物産と知り、驚きを隠せない。
名門大学の出身者でなければ就職活動は門前払いだし、実際に採用されるのは、その優れた学生の中でもひと握りだという。
私みたいな地方民でも、それくらいの情報は知っていた。
「わかった。そこまで言うならあきらめるよ。無理を言って悪かったね」
「いえ。こちらこそお役に立てず申し訳ありません。では、失礼しま――」
社長に頭を下げ、部屋を出て行こうとする須田さんが、ドアの前で棒立ちになっていた私の姿を捉える。しかし、目が合った瞬間気まずそうに逸らされた。
もしかしたら、私が聞いてはいけない話だったのかも……。
話しかけづらい雰囲気に負けてその場に立ったままでいると、須田さんは社長室を出て行ってしまった。
パタン、とドアの音がした直後、デスクの方から社長の声が聞こえてくる。
「いやー、まだまだアイツの傷は癒えそうにないね……。ところで加納さん、僕になにかご用かな?」
「え、と……そうだ、私、須田さんに用があるんでした!」
社長室に来たのは彼を探していたからだったのに、本来の目的をすっかり見失っていた。