ひとりぼっちの上司と私
「あ、須田さん……」
「怖い顔をしてどうした?」
加納がなんとなく気まずそうな顔した気がして、俺の中に生まれた黒い雲は急速に広がっていく。
一方、彼女の肩からスッと手を引いた社長は、何事もなかったかのように俺を見た。
この苛立ちの正体は不明だし、おそらく仕事には関係のない感情。俺はさりげなく深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
「どうしたじゃありませんよ。新しい取引先との契約書、まだご覧になっていないでしょう。早急に確認して電子署名を済ませてください。先方が困っています」
「ああ、ごめんごめん。それじゃ、加納さん。さっき言った特別報酬、よく考えておいてね」
「わかりました。では、失礼します」
段ボールを抱えた加納は、ドアの前で「よいしょ」と言って箱を持ち直す。
「ああ、それじゃドアが開けられないね。待って、今開けるから――」
社長がゆったりとした動作で彼女の方へ近づこうとしたが、俺は気が付けば彼より先に加納のもとへ歩み寄っていた。
むしろ、小走りと言っていい速さで。
「貸せ。この段ボールはどこへ持っていくんだ?」