ひとりぼっちの上司と私
「え、と……自分のデスクに持ち帰るだけです。あの、ドアを開けてくだされば後は私が……」
「どうせ、商品企画部のドアの前でもまごつくんだろう。中身をひっくり返さないためにも、任せてもらった方が安心だ」
彼女の手から半ば強引に段ボールを奪い、両手でひょいと抱える。加納が焦ったように社長室のドアを開けてくれる。
「すみません、ありがとうございます」
「気にするな。……ところで加納」
「はい」
最近どうして夕波メロウに現れないのか。会社を離れてまで上司と交流することが嫌になったのか。
社長の言っていた〝特別報酬〟とはいったいなんなのか。
いくつもの疑問が頭の中を駆け巡ったが、その全部が女々しい内容に思え、軽く頭を振った。
「企画の進行状況は順調か? 例の、魚介類シリーズの」
「はい、追加のラインナップに入れた紅ズワイガニの凹凸にめちゃくちゃこだわったので工場には嫌な顔をされましたが、須田さんの交渉力を見習ってなんとか説得に成功しました」
加納はそう言って、カニの真似をしているのか、両手で作ったVサインをハサミのように動かす。
……かわいい。
ほぼ無意識に心の中で呟いた自分に気付き、首から上が急激に熱くなった。慌てて彼女から顔を逸らし、羞恥に耐える。神聖な会社で、俺はいったいなにを思っているんだ。