ひとりぼっちの上司と私
「そ、それはなによりだ。最終サンプルを見せてもらうのを楽しみにしている」
「はい。須田さんの大好きなマグロも、魚体の艶をとことん追求してるんです。お刺身の方と合わせて期待していてくださいね」
俺がマグロを好きだと言ったこと、未だに覚えていてくれてるんだな……。
どこか感傷的な思いを引き摺りながら段ボールを彼女のオフィスへ運び、最後に「頑張れよ」とひと声かける。
たまたまそばにいた我妻が〝また須田さんが似合わないことをしている〟という気味悪そうな顔で俺を見ていたが、俺はその視線を避けるようにして、商品企画部を後にした。
この頃の俺はらしくないと、自分でもわかっている。
社長が加納の肩に手を置いた時の苛立ち、手がふさがっている彼女をつい助けたくなた衝動、カニの真似をする彼女の姿にふと覚えた、あの甘やかな感情。
まさかな、という微かな予感が、やっぱりそうかと確信に変わる瞬間は、そう遠くない気がしている。
しかし、だからどうするというわけでも――。
「おかえり。署名は済ませたよ。あと、溜まっていた承認関係の書類もいくつか片付けた」
今一度社長に発破をかけるために彼の部屋へ戻ると、社長は意外にもすんなり仕事を片付けていた。