ひとりぼっちの上司と私
「ありがとうございます。……いつもこのくらいのスピード感でお願いしますよ」
「はいはい。さて、やるべきことはきちんとこなしたから、レストランの予約でもしようかな」
やっと解放された、という表情でデスクから立った社長が、背伸びをして首を回す。
最低限の事務処理を終わらせたくらいで得意げになれるのは、この人の長所でもあり短所でもある。
「どうぞご自由に」
「本当にご自由にしていいの?」
「はい?」
社長は俺の前までくると、ずいっと顔を近づけてくる。この人は俺よりひと回り年上のはずなのに、普段の言動や肌の色艶だけ見ると、もう少し年の近い先輩のように錯覚してしまう。
長らく独身で、自由奔放に生きているように見えることも関係しているかもしれない。
「さっき、加納さんと話してたのちょっと聞いてたでしょ? 彼女、最近すごく頑張っているから、社長の僕から特別報酬として食事をご馳走してあげるつもりなんだ」
「加納と食事に……?」
どうしても聞き流せなくて、思わず低い声で聞き返す。社長が無言で頷くと、考えるより先に声を荒らげていた。