この度、俺様パイロットとご成婚しました。
(迂闊だった)
心を入れ替えたのだと思っていたが、彼の目的は鈴菜だったのだ。
彼のような非の打ちどころのない人からプロポーズされるとは予想外だった。
「既婚者ね。そうか、それは残念だな」
航輝は薬指に輝く指輪の存在を知ると、大げさに肩をすくませた。
(あれ?)
思っていた反応ではなく、鈴菜の方が拍子抜けする。
大概の男性は左手の薬指に嵌められている指輪を見せるとシュンとしょげた様子になるのに、彼はしょげるどころか余裕たっぷりで笑っている。
(そうか!プロポーズは彼なりのジョークだったのね!)
鈴菜はほっと胸をなでおろした。
歯車がかみ合っていないようなほんの少しの違和感があるものの、ちょっとした冗談に振り回されている暇はない。
「来栖さんは職業柄、土日にデートの都合をつけるのは大変でしょうから、あらかじめお見合い可能な日程を――」
「君の夫はどんな男なんだ?」
「……は?」
話を続けようとした矢先に出端をくじかれ、思わず声が漏れ出る。
(意味がわからない)
なぜ今、鈴菜の存在しない夫の話などしなければならないのか?
「プライベートの話にお答えする義務はありません」
「婚活の参考に教えてほしいんだ。実際に結婚に至った男性の人柄が知りたい」
鈴菜はふうっと息を吐いた。
おそらく、鈴菜が夫の話をしなければ、肝心の女性の希望条件を言わないままのらりくらりとかわすつもりなのだろう。
どうやら、話をしなければ先に進めなさそうだ。
本当は夫なんていないけれど、ここは一芝居打たなければならない。