この度、俺様パイロットとご成婚しました。
◇
(こんなところにバーなんてあるんだ。全然知らなかったな)
仕事を終えた鈴菜は、唇を引き結びながら大勢の人が行きかう大通りをひとり静かに歩いていた。
若槻が帰ったあと、渡された電話番号に恐るおそる電話をかけると、事務所の近くにあるとあるバーが指定される。
(結婚か……)
鈴菜はふうっと息を吐き、トートバッグの持ち手を握る手に力を込めた。
結婚しろと言われたときはあまりに突然で、うろたえていたけれど、今は少しだけ考えるゆとりが出てくる。
(断ろう)
婚活だって何回もデートを重ね、少しずつに歩み寄るのに、彼は自分の事情ばかりを押し付けてくる。
そんな人と結婚だなんてありえないと、頭では思っているのに、なぜか鈴菜の足は彼との待ち合わせ場所へと向けられている。
ふと左手を持ち上げ、偽りの結婚指輪を見つめる。
(あれから三年も経ったのか……)
仕事に忙殺されることで意図的に封印してきた苦い記憶が蘇り、鈴菜を苦しめる。