この度、俺様パイロットとご成婚しました。
通勤時に毎日通っている大通りからひとつ路地を曲がっただけなのに、途端にあたりが静かだ。
小さなライトに照らされた看板の店名だけが、ここにバーがあることを示している。
鈴菜が恐るおそる地下へと続く階段を下りると、重厚なオークの扉が目の前に現れる。
光の当たらない地下の雰囲気と相まってまるで異世界への入口のようだ。
とんでもない世界に足を踏み入れようとしている気がしてならない。
それでも思い切って扉を開くと、一番奥のカウンター席には見覚えのある男性が座っている。
「迷わなかったか?」
航輝は鈴菜がやって来たことにすぐに気がついた。
「ええ。平気でした」
鈴菜はそう言いながら、航輝のとなりの席に座った。
間接照明のみの薄暗い店内にはふたり以外誰もいない。
込み入った話をするにあたって、あまり騒がしい場所はふさわしくない。
隠れ家のようなこのバーはうってつけの場所のように思えた。
「なにか飲むか?」
「いいえ。大丈夫です」
大事な話をするときに、お酒が入っているとろくなことにならない。
会員にも、飲酒は三度目のデートからにした方がいいとすすめている。
お酒には強い方だが、今はどんな本音が出るかわからない。