この度、俺様パイロットとご成婚しました。
鈴菜は五分ほどかけて覚書の内容を確認した。どの条件も許容できる範囲内だ。
「お話はよくわかりました。でも離婚後の生活費と慰謝料は要りません」
気がつくと鈴菜はそう口にしていた。
たしかに最初は脅されたから話を聞きにきたが、今となっては強制されたから結婚するのではない。
自分で決めたことなら、契約結婚の落とし前も自分でつけるべきだ。
結婚したからといって、あのときの深山の気持ちをすべてを理解できるわけではない。
成婚数が伸びるとは限らないのもわかっている。
(それでも私は……)
彼女にも幸せになってほしかったと思うのはおこがましいのだろうか?
鈴菜は覚書をもと通り封筒にしまうと、大きく息を吸った。
「あなたと結婚します」
目をそらさず彼をまっすぐ見つめたのは決意の大きさの表れだ。
「度胸があるな。ますます気に入った」
航輝は口の端を上げて笑った。
「俺のことは航輝と呼べ」
「航輝さん?」
言われた通り名前で呼んだのに、航輝は不服そうに眉間に皺を寄せた。
「『さん』はいらないが、まあいい。これからよろしく、鈴菜」
「よろしくお願いします」
固くかわされた握手は、ふたりが契約結婚に合意したなによりの証だった。