この度、俺様パイロットとご成婚しました。

(次のカウンセリングまで、まだ時間がありそう)

 片づけを終えた鈴菜は左手に嵌めた腕時計を確認し、頭の中でこれからのスケジュールを組み直した。
 ひとり送り出したからといって、のんびりしている時間はない。

 担当会員のプロフィール用の写真撮影に付き添ったり、デートの様子を聞き出して、フィードバックする必要がある。

 成婚セレモニーの片づけなんて、数ある業務のほんの一部にしかすぎない。

 多忙を極める鈴菜が仕事を再開するべく自分のデスクに戻ろうとしたそのときだ。

「セレモニーは終わったの?」

 どこからともなく声をかけられ、後ろを振り向くと、小柄の女性が立っている。
 鈴菜を呼び止めたのは、ビリーブマリッジの所長を務める速水真由子だ。

 エレガントな印象のネイビーのセットアップに、肩までのびた趣のあるグレイヘアーをふんわりと内巻きにカールさせた髪型。いかにも人のよさそうな笑顔には、なんなく会員たちの懐に入れる不思議な魅力がある。

 真由子がこれまで婚活アドバイザーとして成婚に導いた会員は千人以上。

 目まぐるしく変わる結婚事情と男女の価値観の変化を素早く察知する能力は一級品。
 同じ速水姓なのは、ふたりが実の親子だからだ。

「はい。滞りなく終わりました」

 鈴菜は実の親子とは思えぬ堅苦しい敬語で返した。

 ビリーブマリッジで働きたいと懇願したのは鈴菜だ。
 たとえ親子といえども、職場では上司と部下。
 他の所員が気を使わぬよう、公私混同は厳禁だ。
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