この度、俺様パイロットとご成婚しました。
「行こうか」
「はい」
緊張を隠しながら返事をすると、ぐいと肩を引き寄せられる。
「今日はスーツじゃないんだな。こちらの方が断然イイ」
仕事中の鈴菜はいつも婚活アドバイザーらしく、ビジネスシーンに相応しいジャケットやセットアップといった、かっちりめのオフィスカジュアスタイルが多い。
今日はどちらかといえば、素の私服に近い。
(意外とよく見ているのね)
この日のために航輝のプロフィールを暗記してきたが、逆を言えばプロフィールに書かれていないことに関しては全く知らない。
強引な言動の裏に隠された繊細な一面に感心しながら、屋敷の中に足を踏み入れる。
屋敷の中はクラシックホテルを思わせる重厚感のあるアンティークの家具で占められていた。
航輝はとある扉の前で足を止め、ノックをした。
「入るよ」
そう言って扉を開けると、部屋の中にはひとりの女性がソファに座っていた。
灰色のショートヘアはきっちりと櫛で整えられ、眼鏡の奥から鋭い視線が鈴菜を捉えている。
「はじめまして、速水鈴菜と申します」
鈴菜が深々と頭を下げると、こちらまで聞こえるほどの大きなため息が聞こえた。
「本当に連れてきたのね」
まるで、連れてきてほしくなかったかのような言い方だ。
彼女が航輝の母親——くるすむつみだ。