この度、俺様パイロットとご成婚しました。
海沿いのカフェで楽しい時間を過ごし夕方になると、車で家まで送ってもらった。
車がひとり暮らしのマンションのエントランスに停車すると、鈴菜はシートベルトを外しながら確認する。
「次は二週間後ですよね?」
「ああ、婚姻届を提出しに行く予定だ」
いよいよ彼と結婚するのだ。
指輪まで買ってもらっておいて今さらだけど、現実味がない。
ジェット機と同じようなスピード感でおいて行かれないようにするのが精いっぱいだ。
「また連絡する」
「わかりました」
軽く会釈して助手席のドアに手を伸ばしたそのとき、運転席から長い腕が伸びてきて、車から降りようとした鈴菜の腕を引く。
「おやすみのキスもしないつもりか?」
まるで恋人との別れを惜しんでいるかのような甘いセリフに、思わず笑みがこぼれる。
「なにを言っているんですか?キスなんていらないでしょう?本物の夫婦になるわけでもないし」
からかうのも大概にしてほしい。
たしかに結婚指輪も買ったし、デートらしきものもしたけれど、ふたりはあくまで契約関係だ。
まさか忘れたとでもいうのだろうか。
「気が変わった」
「気が変わった?」
思わず聞き返すと、航輝はシートベルトを外し、助手席に身を乗り出し、鈴菜を逃がさないよう覆いかぶさってくる。
「本気でくどきたくなった」
「は?」
逃げ場のなくなった鈴菜は身をすくませ、彼の一挙手一投足に注意を払うしかない。
「成婚したあとなら、キスもその先も……かまわないんだろう?」
航輝は結婚相談所のルールを揶揄すると、右手で鈴菜の顎を持ち上げた。
(気が変わったってそういう意味なの?)
気づいたときには、航輝の形のよいふっくらとした唇が数センチ先に迫っていた。