この度、俺様パイロットとご成婚しました。

「ほどほどにしておけよ」
「わかってるって」

 そう言うと、黒崎は帽子を深くかぶり、床に置いた黒のキャリーケースの取っ手を引き上げた。

「今日はどこに行く予定なんだ?」
「これからツーレグで博多だよ。今日は天候もいまいちだし荒れそうだ」

 ブリーフィングを思い出したのか、ため息をつく。
 レグは片道の搭乗期間を指す。ツーレグとはつまり、博多を往復するという意味になる。

「そっちは?」
「パリ」
「がんばれよ」
「ああ。そっちもな」

 片手を上げ互いを励ましあったあとで、黒崎は背を向け国内線のゲートがある方へ颯爽と歩いてった。

 担当する機種が異なるため一緒の飛行機に乗る機会はほとんどないが、たまに事務所で出くわすと話が弾むのは、同期ならではだ。

 職場にいると、スペードホテルの御曹司という自分の立場をつい忘れそうになる。
 航輝がパイロットを志したのはかれこれ十年間の話だ。
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