この度、俺様パイロットとご成婚しました。
(いったい、どういうつもりだったの?)
鈴菜は先日の彼の言動を思い返しては、ひとりやきもきしていた。
契約結婚だと安心しきっていたところに、くどき落とすと宣言されたうえにキス寸前の距離まで迫られたのだから。
結局、あの夜は明け方まで眠れず、翌日は眠気と一日戦う羽目になった。
そんな鈴菜の心情など知ってか知らずか、航輝はあくまでも何事もなかったのように振る舞っている。
(こんなことなら接触禁止を契約に盛り込んでおくべきだった)
本気で悔やんでいるうちに、車は順調に道路を走り、目的地に到着する。
「鈴菜」
「ひゃっ!」
声をかけられると同時に航輝の手が鈴菜の右手をかすめていき、思わずビクンと肩が震える。
「驚かせないでください!」
「ああ、また迫られると思ったのか?」
「違います!」
そういって顔を背ける鈴菜がおかしかったのか、航輝はあははと声をあげる。
警戒しているのが丸わかりで、自分でも顔が熱くなるのがわかった。
役所の中に足を踏み入れ、手続きの順番を待つ間も恥ずかしくて航輝の方を見られなかった。
ようやく彼と向き合えたのは、無事に婚姻届が受理されたあとの話だ。
「これからよろしく、鈴菜」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
こうして無事に夫婦となったふたりは、互いに頭を下げあったのだった。
——そして迎えた、引越し当日。