この度、俺様パイロットとご成婚しました。
「用意してくれてありがとう」
「あ、いえ……。どういたしまして」
感謝の言葉を忘れない航輝の態度につい頬が緩みそうになる。
夜遅くに帰ってきたのに航輝が必ずと言っていいほど朝食の席に顔を出すのは、鈴菜との時間を大事にしたいという気持ちの表れだろう。
「ひとりで暮らしているときは、食事はどうされていたんですか?」
そう言えば引越し当初バスルームや洗面所にはそれなりに生活感があったが、キッチンはあまり使った形跡がなく綺麗だった。
食器や調理器具も最低限で、冷蔵庫の中も生鮮食品は見当たらず、水や調味料の類ばかりが入っていた。
「外で食べることが多かったな。食材を買っても使い切る前に余らせるし。でも、自炊ができないわけじゃない。特に和食はレパートリーに自信がある」
「意外ですね」
「パイロット研修生のときはアメリカで暮らしていたんだ。日本食が恋しくなって、自分で作るようになった。今度作ろうか?」
「いいんですか?」
「もちろん」
自信ありげな澄まし顔に乙女心がくすぐられ、ついクスリと笑みがこぼれる。
一緒に暮らし始めた八月は夏休みや大型連休の影響で、フライトスケジュールもギリギリまで詰まっていたらしいが、航輝はマメに連絡をくれたから、コミュニケーション不足に陥って不満を感じる暇もなかった。
(結局、寝室も別のままだしね)
懸念していた貞操の危機も今のところは感じられない。
(意外とこの生活も悪くないかも)
他人を気遣いながら暮らす生活はどこかくすぐったい。
まだ慣れないことも多いけれど、どうにかやっていけそうだと呑気に構えていたその矢先。