この度、俺様パイロットとご成婚しました。
「いくらなんでも無茶ですよ。飛行機が苦手なのに我慢するなんて」
鈴菜は内心呆れてしまった。
数時間の移動ならともかく、ニューヨークまではあと十時間はかかる。
我慢するにしても限度というものがある。
「来栖家の長男として初めて夫婦一緒に公の場所にでるというのに、姑の私が行かないわけにはいかないでしょう?」
睦美は具合が悪そうにハンカチを口もとにあてながら、恨めしげに鈴菜を睨んだ。
どうやら、自分のことより姑としての義務を優先させるのが睦美という人間らしい。
しかし、離陸してしまった以上、おいそれと地上には戻れない。
「ちょっと失礼しますね!」
「なっ……!なにをするのよ!」
鈴菜は通路を飛び出て、睦美のエリアに入り込んだ。
予想通り、睦美は搭乗時に着ていたスエードのジャケットとスカート姿のままだった。
ブランケットも使わずスリッパに履き替えた形跡すらない。
「ゆっくり休めるように少し整えるだけです」
鈴菜はリモコンを操作し、座席をリクライニングさせてやると、スリッパとブランケットを出してやった。
食事を一切取らないのも逆に身体によくない。
CAに相談して、温かいスープやパンなど、なるべく胃に負担がかからず食べやすそうな食事を用意してもらった。
就寝時間には早いがCAにベッドメイキングを済ませてもらうと、睦美をパジャマに着替えさせ、ついでに鈴菜が持参していたアイマスクと耳栓も渡した。