この度、俺様パイロットとご成婚しました。

「あら鈴菜、指輪は?」
「え?」

 慌てて左手をあげ確認すると、たしかにあるべきものがなかった。

「くれぐれも指輪をつけるのを忘れないように」
「わかっています」

 鈴菜は真由子の忠告に静かに頷くと所長室をあとにし、事務室へ戻り、入口から一番廊下に近い自分のデスクに着席した。
 おもむろに開けた引き出しの中、一番手前の仕切りの中に地金のみのシンプルなプラチナ製の指輪が置いてある。
 無言で指輪を左手の薬指に嵌めるが、鈴菜の指には少し緩い。
 真由子が若いときに使っていたお下がりをそのまま使用しているからだ。

(いつまで経っても慣れないな)

 左手の薬指に指輪を嵌めているが、鈴菜には結婚歴もなければ離婚歴もない。正真正銘の独身だ。なんなら恋人すら、ここ数年いない。
 結婚のご縁を繋ぐ役割を担っている婚活アドバイザー自身が結婚を偽装しているなんて、なんとも皮肉な話である。
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