この度、俺様パイロットとご成婚しました。
「あの……ひとつ申し上げてもよろしいでしょうか?」
「なにかな?」
「一昨日、『睦美は俺を嫌っている』とおっしゃっていましたよね?」
「ああ」
「お母さまの例の態度なんですが、私には本当にお父さまを嫌っているものだとは思えなくて……」
達夫は興味深そうに、大きく目を見開いて鈴菜の言葉の続きを待っていた。
「”好き避け”という言葉をご存じでしょうか?」
「”好き避け”?」
聞き慣れない言葉なのか、達夫は躊躇しながら聞き返した。
「恋愛に慣れていない人がやってしまいがちな行動のひとつです。本当は相手のことが好きでたまらないのに、表に出すのが恥ずかしくてつい避けてしまう」
睦美は旧華族の出身であり、愛情を表に出すのなんてはしたないと教育されてきた可能性が高い。
「お母さま、本当はお父さまともっと一緒にいたいんだと思います。素っ気ない態度ばかりとるのは素直になれない裏返しなんだと思います」
睦美が大事にしていた真珠のイヤリングがその証拠だ。
「だから、お父さまもお母さまとちゃんと向き合ってもらえませんか?」
そういうと、達夫は大きく目を見開き、次の瞬間、柔らかく微笑んだ。
「ありがとう、鈴菜さん。うん、そうだな。睦美とちゃんと話をしてみよう」
三十年以上こじらせ続けた結婚生活の先になにが待っているのか、まだ新婚の鈴菜にはわからない。
けれど、今ならまだ間に合うはずだ。