三角形の角は、ひとつ余る
それから数日後。

今日の数学は少し難しい章に入っていて、
先生が「じゃあ、この問い3を各自解いてみろー」
と教室を巡回し始めた。

​ノートにペンを走らせながら、ふと目の前の背中に
目が留まる。

篠原くんの肩が少し強張っていて、右手で持った
シャーペンが完全に止まっていた。頭をぽりぽりと掻いて、教科書とノートを交互に何度も見返して
いる。

​(……もしかして、手詰まりしてるのかな?)

うーん…と小さく唸る声が聞こえてきて、
私はドキドキしながら、そっと手を伸ばした。
篠原くんが座っている椅子の背もたれを、指先で
トントン、と軽く叩く。

篠原くんがびっくりしたように振り返った。
目が合って、私は少し緊張しながら声をひそめる。

「…ここ、プラスとマイナスを入れ替えて計算
すると解けるよ」

「え……?あ、本当だ」

篠原くんは目を見開いたあと、私が言ったことを
自分のノートにメモをして、それから
「なるほど!」と呟いて、サクサクとペンを動かし始める。

​チャイムが鳴り、授業が終わった瞬間。

篠原くんはくるりと後ろを振り返ると、パッと表情を明るくして私を見た。

「さっきはありがとう! まじで助かった…
あのままだと絶対指名されて詰んでた」

「ううん、たまたま私もさっき解けたところ
だったから」

「瀬戸さんって数学得意なの? 教え方めっちゃ
分かりやすかった」

そう言って、篠原くんは私の机にぐっと身を乗り
出してきた。

ふわっと、ほんのり爽やかな香りが鼻をかすめる。

距離が、近い。

「また分かんないところあったら頼ってもいい?」

「うん、私でよければいつでも!」

と答えるのが精一杯だった。

​背中越しに感じていた遠い存在の篠原くんと、
急に距離が、縮まったような感覚。

頬が熱くなるのを感じながら、私は

(この席になれて本当によかった…!)

と心の中で密かにガッツポーズをしたのだった。


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