灰色の日々に、君が灯した甘い色
並んで楽しそうに話しながら、こちらに向かって歩き出す。

(どうしよう……!)

心臓がばくばくと嫌な音を立てて、咄嗟に逃げたくなった。
でも、辺りを見回しても隠れるような場所がない。

「あ……」

彼が私に気付いて、目が合ってしまった。

地面と私の靴がくっついてしまったかのように、足が動かない。


彼が私を見つめながら口を開こうとした、その時――
隣にいた女の子が、小さな悲鳴を上げる。

どうやら躓いて転びかけたようだ。
彼が、咄嗟に腕を引いて支えてあげていた。


――どくん。


胸から耳へと、嫌な音が鳴る。


危ないところを助けてあげただけ。

(あの女の子が怪我しなくて良かった……)

それなのに。
腕にしがみついてお礼を言う女の子に、ほっとしたような顔で微笑みかける彼。


――その笑顔は誰に対しても同じ、だったのだ。


彼は、女の子の足元を心配するように身を屈めた。

まるで、恋人同士にしか見えない。


私の胸の中に、冷たいものが突き刺さる。
その衝撃に弾かれるように、固まっていた足が勝手に動きだした。

私は反射的に顔を伏せて、横を通る男性会社員の影に入って歩き出す。
バッグの紐を握る手にきつく力が入る。


……なんとなく。
彼が私の方を向いて『翠さん』と、呼んだ気がした。

振り返ることができない。
ただ、逃げるように歩みを早める。

歩くごとに振動が全身に鈍く響いて、胸が鉛のように沈んでいく。
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