灰色の日々に、君が灯した甘い色
足元を見つめていると、アスファルトがぐにゃりと歪む。
灰色、黒色、そして赤色が混じって汚れていく。

(違う、違う、違う)

歩きながら、思いきり首を振った。

(癒やされていただけ)
(それ以上なんて望んでいないから)

そう言い聞かせるたびに、喉の奥から塊のようなものが込み上げてくる。

(名前の知らない人だよ)

(他人だよ)


彼からしたら、私はただの接客相手。

それなのに、名前を呼ばれただけで特別な意味を探してしまった。

ハートひとつで、自分だけかもしれないと思ってしまった。

浮かれてしまった自分が嫌だ。

(年下に興味を持つなんて……有り得ないでしょ)


ビルの隙間から生ぬるい風が吹いて、夕日の光を浴びた植木の葉がさわりと揺れた。


――『翠さん』


彼の言葉が脳裏に浮かぶ。

恥ずかしそうな笑顔も。やさしそうなカフェラテ色の瞳も。

そして、彼が作ってくれたハートの――

「あああ、やめてーーー……っ!!」

思わず大きな声を出して、ハッとした。

通行人が驚いた顔で私をじろじろと見ている。
まるで異物を見ているような、そんな目だった。

「あ……」

途端に恥ずかしくなって、俯いてまた歩き出す。
< 15 / 40 >

この作品をシェア

pagetop