灰色の日々に、君が灯した甘い色
* * *

「じゃあ、私、寄っていくところがあるから」

会社に戻る途中、ランチ仲間の同僚と別れた。

「わかったー。先に戻ってるね、翠」

彼女は慣れた様子で手をひらひらと振ると、人の流れに乗って足早に会社へ戻っていく。

私はその背中を見送ってから、腕時計を確認した。

昼休みの時間が残り少なくてちょっと焦る。


急いで向かったのは、ビジネス街の通り沿いにある、静かなコーヒーショップ。
真夏の陽射しを柔らかく受け止める、白い石積みの外壁。
それから、店内の灯りがこぼれる大きなガラス窓。

入り口には、真っ白な大理石に『ピエトラ・ビアンカ』と銀の文字が刻まれている。

スーツ姿の会社員が次々と出入りし、自動ドアが開くたびにコーヒーの深い香りが通りへ流れ出す。

最近、仕事が立て込んで、昼休みすら慌ただしい。
PCのブルーライトに目を焼かれ、無機質な数字と向き合う毎日。

そんな中で、このお店に寄ってコーヒーを買うことだけが、私の唯一の楽しみになっている。


その理由は――


「いらっしゃいませ」


一歩足を踏み入れれば、そこは温かみのある白を基調とした店内。

そのカウンターの向こうで、微笑みを向ける――彼がいるから。
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