灰色の日々に、君が灯した甘い色
その瞬間、前に私の名前を呼んだ声と同じ音が耳に響く。

「この先にあるコンビニを右に曲がります」
「そのまま、まっすぐに行って三つ目の建物ですね」

視界の端を白いシャツが横切り、私の右肩の上から長い腕が伸びた。
その見覚えのある色に心臓が大きく跳ねた。


(――彼だ!)


私の肩ごしにスマホをのぞき込んで、画面を指差す彼。
いつもよりも早口で、少し言い方が強くて、呼吸が乱れている。

(あああ……っ、近い近い!)

シャツが頬をかすめて、石化したかのように動けなくなってしまった。
低い声を耳元で感じながら、自分の胸の音を抑えるのに必死だった。


思わず下を向くと、灰色の靴下と黒い靴の先――アスファルトに、二つの影が重なっている。
触れていないのに、背中がじんわりと熱くなってくる。

ふわりと、コーヒーのほろ苦い香りが鼻をくすぐった。

(あれ……)

胸に、温かいものがぽっと、小さく灯る。

(……すごく、良い香り……)

安心して、嬉しくなって。
少し泣きたくなる。


――無性に恋しい。


やっぱり私は、コーヒーが好き。

そっと顔を上げると、視界の端で揺れる街路樹の緑が、灰色の景色にやさしく溶けあっていくように見えた。
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