灰色の日々に、君が灯した甘い色
「…………はい?」
「今……。か、か、可愛いって聞こえましたけど!?」

思わず声が裏返ってしまった。

まるで異物というか、別世界のような単語が信じられなくて。
思いきり彼を見上げた。

最近の若者にとっては、軽い挨拶と同じように使う言葉なのだろうか。

(そんなバカな――)

信じられない想いでいると、彼は、いつものはにかんだ笑顔を向けた。

「はい。可愛いです、すっごく」

そう言って、深く、強く頷いた。

「……!」

私は絶句してしまった。
何度も瞬きをして彼を見上げる。

――彼は、私の心の声を聞き取る能力でもあるのだろうか。

考えていることをすぐに否定されて戸惑う。



こうして向き合って立っていると、スラリと背が高くて、肩幅もあって、カウンター越しで見るよりもずっと男性らしい。

重たい雲からいくつもの光が伸びて、彼を照らす。
陽の光を浴びた彼は、いつも以上に柔らかく輝いて見えた。

車が行き交う音も、周りの足音も聞こえなくなるほど、自分の心臓の音がうるさく鳴り響いて混乱する。

こういうとき、どう返したらいいのだろう。
大人の女性なら、余裕のある笑顔で返すのかもしれない。

けれど、今の私には、熱くなる頬を隠すことも、だらしなく開いた口を閉じることさえままならない。
< 23 / 40 >

この作品をシェア

pagetop