灰色の日々に、君が灯した甘い色
「……なんだ、今の……」

呆然と立ち尽くしたまま、彼女が消えた先を見つめる。

真っ白なキャンバスに鮮やかな絵具が広がっていくような、得体の知れない高揚感が胸を満たしていた。


胸の奥が、じわりと熱くなる。
さっきまでまとわりついていた不安が、どこかへ消えていた。

代わりに、頬に温かいものが触れた。

反射的に指で拭って、目を瞬く。
指先が、濡れている。

雨でも降ってきたのかと思って空を見上げた。
夏の空は、さっきと変わらず明るい。


「え、涙……?」


どうして自分が泣いているのか、分からなかった。



「……おい」
「おーい、ルカ。……おい、ルカ。白石(しらいし)ルカ!!」
「ルカちゃああああん!??」

「うわっ!?」

突然肩を叩かれ、心臓が跳ね上がる。

「あ……お兄ちゃん……」

そこには、待ち合わせ相手の従兄弟――桃兄(ももにぃ)が呆れた顔で立っていた。


「何ぼーっとしてたんだよ」

不思議そうに顔を覗き込む。
僕は、彼のもじゃもじゃした黒髪の向こうをぼんやり眺めながら呟いた。


「……すごく、綺麗だったんだ……」


「はあ?」

桃兄は怪訝そうに眉を寄せると、くくっと喉を鳴らして笑った。

「なんだ、織姫様にでも会えたのか?」

僕が嫌そうな顔を向けると、さらに可笑しそうな顔をされた。

そして彼が「さ、行くぞ」と顎で示したのは、さっきの彼女が消えていった交差点の先。


(織姫……)

そうか、今日は七夕か。

それなら――


(また、彼女に会えますように)


そんな願いが自然と胸に浮かんだ。


その願いがこれほど早く現実になるとは――

この時の僕はまだ知る由もなかった。
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