灰色の日々に、君が灯した甘い色
(七夕の……彼女……!)

ドクンと心臓が跳ねて、耳の奥にまで音が響く。

「……あっ」

手元が疎かになり、補充していたガムシロップがカウンターへコロコロと転がった。
慌ててかき集めようとする指先が、微かに震えている。


顔が熱い。
みるみるうちに頬が赤くなっていくのが自分でも分かった。

ゆっくりと、こちらに近づく足音だけがやけに耳に届く。

また会えますようにと願ったけれど。
まさかこんなに早く、しかも自分の職場で叶うなんて。


(落ち着け……落ち着け、僕)

一つ深く呼吸をして、逃げ出したくなる気持ちを抑えて顔を上げた。

レジの前に立った彼女と視線がぶつかり、一瞬たじろぐ。


「い、いらっしゃいませ……」

引き攣った笑顔で、なんとか声を絞り出した。

「えっと……」
「持ち帰りで――……」

カウンターに置いてあるメニューを見ずに、目を泳がせながら小さく唇を動かす彼女。

目の前にいる。
あの日、遠くから見ていることしかできなかった人が……。

(しゃべってる)

今、僕に話しかけている。

(やばい……、声、可愛すぎ……っ)

そう思った途端、頭の中が真っ白になった。

脳裏に、あの日見た、笑顔の彼女が浮かぶ。
あの時の頬のピンク色が、ふわりと視界を染めたような気がした。


「――はっ!」

我に返ると、彼女が不思議そうに、そして不安げに僕を見つめていた。

やってしまった。
注文が全く頭に入っていない。

「えっと、ホット……でしょうか?」

店員としてあるまじき失態に、申し訳なさで消え入りたくなる。

「はい、ホット……です」

彼女は俯き加減で、けれど柔らかく微笑んだ。

その表情を見た瞬間、胸の奥がぎゅっと高鳴る。


言葉を交わせた。
ただそれだけのことが、たまらなく嬉しい。

彼女の周りだけ、時間がゆっくりと流れているような。
静かな空気が満ちていた。

不思議と緊張が解けて、指先の震えが落ち着いていく。

「……かしこまりました!」

今度は、さっきよりもまともに笑えた気がした。
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