灰色の日々に、君が灯した甘い色
――それは、ほんの一瞬の出来事だった。

テイクアウト用の紙カップを受け取った彼女は、小さく会釈をして足早に去っていった。

(……本当に、会えたんだ)

誰もいなくなった自動ドアを、僕は呆然と見つめていた。


「そろそろ休憩行ってきていいぞ」

背後からかかった店長の声に、肩が跳ねる。

「あ、はい……」

振り返ると、彼は満足げに腕を組んでいた。

「飲み込みが早くて、三日目にしては上出来だ」
「お坊ちゃまには未知の世界で重労働かと思ったけど、余計な心配だったな」

「やめてよ、お坊ちゃまとか言うの」
「……僕、最近までケーキ屋でバイトしてたよ?」

つい最近まで、叔父が経営している洋菓子店でレジと接客をしていた。
この店のレジ横に置いてある焼菓子は、その洋菓子店から仕入れている。
僕は常に、身内が用意してくれた世界にいる。


「そうだな。接客も花丸だ」
「――だが」

店長が、面白いものを見つけたような顔で、にやりと笑う。

「たった一人のお客様の前で、あんなにポンコツになるとはなぁ!」

図星を突かれ、僕は顔を伏せて苦笑いした。

「すみません……気をつけます」
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