灰色の日々に、君が灯した甘い色

第2話 推しで、尊くて、沼なんだろう

彼との出会いは、一ヶ月前。
七月下旬の、夏本番の頃だった。

よく見る店員さんじゃなくて、色白の綺麗な男の子がレジに立っていて、少し緊張した。

彼も、接客に緊張しているのか、私を見た瞬間に表情を強張らせた。


「えっと……」
「持ち帰りで、ホットコーヒーをお願いします」

私にとっては、いつもと同じ注文。
メニュー表を見ずに頼むと、彼は大げさに目を見開いた。

「えっと、ホット……ですか?」

外は、アスファルトが陽炎を立てるほどの暑さ。
聞き返されるのも無理はないかも。
けれど、冷房が効いたオフィスに戻る私には、この熱さが必要なのだ。

「はい、ホット……です」

恥ずかしくなりながら笑って頷くと、私を見つめていた彼の瞳が揺れる。


(ものすごく寒がりなんです……)
(知ってます? コーヒーのカフェインって実は冷え性にはよくないらしいですね?)
(それでもやめられないんですよね……あはは)

なんて、口に出せるはずもない。


きっと彼にとってはどうでもいい情報だから、心の中でべらべらと話した。

まさか、私の心の声が聞こえていたのか。
しばらくの間のあと、彼の目元がふわりと下がる。

「……かしこまりました!」

喉の奥で転がすように言った。


彼のその笑顔に、私の胸の中で小さな音が弾けた。

――それが、最初のやり取りだった。
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