灰色の日々に、君が灯した甘い色
今ではもう、ホットコーヒーでも何も不思議に思われない。

「お待たせしました、ホットコーヒーです」
「熱いので、お気をつけください」

手つきも、言葉も、以前よりずっと滑らかになった。

でも、最後に添えられる笑顔だけは、いつも少しだけぎこちない。

その不器用な彼を見るたびに、私の心に言葉にならない温かいものが灯る。


テイクアウト用の紙カップを差し出されて、そっと手を伸ばす。
その時、指先がかすかに触れた。

(あああああ……っ!)

思わず変な声が出そうになった。
コーヒーよりも先に、指先から心臓へ直接熱が走る。

(どうしよう!?)

彼の指も止まったまま動かない。
数秒の沈黙が、永遠のように長く感じられた。

「あ、あの……」

このままだとカップを持ち上げられない。

(触ってます……、触っていますよ……)

誰かと指先が触れるだけで、こんなに緊張するなんて知らなかった。


おずおずと顔を上げると、私たちの手元を見つめていた彼の肩が小さく震える。
そして、私たちの視線が重なった。

「あっ、あああああ……っ!?」
「す、すみません、ど……どうぞっ!!」

勢いよく彼の手が引っ込む。
いつもよりも困ったような笑顔で、それでいて耳の付け根を赤くしていた。

私と全く同じ心の声が、彼の口から出てきたのが少し可笑しい。

それに私も、耳まで熱くなるのを感じて視線を逸らした。

「い、いえ……ありがとうございます……っ」

逃げるようにカップを両手で受け取り、小声でお礼を言った。

たぶん今の私は、ロボットみたいにぎこちない動きをしてる。
意識しないフリってすごく難しい。


お店を出て慌てて、カップを握る指――触れたところを見つめる。
彼に見られた指に、何かゴミでも付いていたのかと不安になったから。
短く切られた、いつも通りの私の指だった。


ほっとして、淹れたてのコーヒーを一口含む。
深い香りが鼻腔をくすぐり、ほろ苦い余韻が胸の奥に沈んでいく。

指先に残る微かな感触を、熱いカップの温度で上書きするように、私は強く握りしめた。
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