灰色の日々に、君が灯した甘い色

第3話 私だけのハート?

今日のお昼休憩は一人。
午前中に社内の試食会があって、そこであれこれ食べたせいか、まだお腹がいっぱいだった。
ランチに行く必要もないし、時間にも余裕がある。

せっかくだから、いつものコーヒーを持ち帰らず、お店の中で過ごすことにした。

キョロキョロして怪しくならないよう気を付けながら、店内を見渡す。

いつものお店のはずなのに、今日は少し雰囲気が違って見える。
窓際の席に見慣れない色を見つけて目がとまった。

(あれ?)
(あそこに木って置いてあった?)

大きな葉を茂らせた観葉植物が、ガラス窓から差し込む陽射しを受けている。
光を透かした葉はみずみずしく、白を基調とした店内に、淡い緑の影を落としていた。

真っ白だった『ピエトラ・ビアンカ』に、少しだけ色が加わっていた。


内装の変化が気になりながらも、視線は勝手にカウンターを探してしまう。

「いらっしゃいませ!」

姿を捉えるよりも先に、彼の声が届いた。
心臓が跳ねて、思わずカバンの紐を握りしめる。

視線が合うと、彼は少しだけ目を見開いた。

(え、私、何か付いてる……?)

私の顔に驚かれたようで、少し不安になった。
でも、彼はすぐに柔らかい笑みを浮かべた。


時々、彼は私を見るとあんな顔をする。

「また来たよ、猛暑のホットコーヒー女」とでも思っているのかも。

やっぱり、私の冷え性とオフィスが北極並みに冷えていること、そしてコーヒーを頼む理由を一度説明するべきなのだろうか。

できることなら半纏(はんてん)を着込んで、私のデスクだけコタツにしてほしい。
足元には湯たんぽも置きたいくらいだ。
この切実さを言葉だけで伝えるのが難しいなら、プレゼン資料にして提出したっていい。


それから、今日の彼はレジ前ではなくて、エスプレッソマシンの前に立っていた。

「ラテお願い」

先輩らしき男性店員の指示に、彼が短く返事をする。
ミルクをスチームするシュルシュルという音が、心地よいリズムで店内に響く。

(わあ……)
(カフェラテも、任されるようになったんだ……!)

彼の成長を見守るような、誇らしいような、不思議な気分。


つい気になってしまって、私は予定にない言葉を口にした。

「店内で……カフェラテを、お願いします」

男性店員が「かしこまりました」と頷くと、彼に声をかける。
彼は作業の手を止めずに一瞬こちらを向いた。
そして、ふっと、柔らかい光に包まれたような笑みを浮かべた。

「……っ」

心臓に悪い、いつものあの笑顔は。

私は慌てて、手元のお財布に視線を落とす。
現金で支払う予定はなかったのに、小銭を数えるフリをした。
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