Fahrenheit Ⅳ


そこからは何事もなかったかのように仕事を再開させた。


途中休憩に給湯室でコーヒーを淹れに行ったが、冷蔵庫が視線に入ってきた。冷蔵庫の中を開けるとさっき瑞野さんが持って行ったマンゴー味のプリンが冷蔵庫の中段にちょこんと置かれていた。


コーヒーのお供にはちょうどいい。あたしはその場でインスタントのコーヒーを淹れ、マンゴープリンを食べた。


それはとろりとおいしくマンゴーが濃厚でどこかみずみずしさも感じて、とても美味しかった。


啓は―――これをどんな思いで買ったのだろう。


あの左右で違うきれいな瞳で、どんな視線でこれらを選んだのだろう。


誰の為に―――


「おいしい」


一つ呟くと、涙が一粒浮かんだ。


何でだろう。涙が……


悲しくなんてない、苦しくなんてない。自分に言い聞かせているけれど、やっぱり悲しいし苦しい。


プリンを一口喉に通す度、塩辛い何かも通って行った。


食べ終わったプラカップを水で洗い流し、資源ごみ用のゴミ箱に捨てた。


コーヒーだけを持ってフロアに戻ると、三人は特に会話を交わすことなく仕事に励んでいた。


さっきの涙とマンゴーの味がまだ複雑に喉の奥で絡まっている。あたしはそれをコーヒーで流し込み、残りの仕事をやっつけることにした。今日は葵さんと約束している。すぐに帰るわけだから早く終わらせないと。


そして迎えた定時。あたしはすぐに啓に日報を送り、帰る支度をし始めた。啓は珍しいものを見る目つきあたしを見てきたが、あたしはそれをスルー。

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