Fahrenheit Ⅳ


「どこに行くの?」と助手席に乗り込んだ葵さん。しまった、あたしとしたことが、どこへいくまでとは考えていなかった。


「………」


一人考え込んでいると、


「てきとーに走らせようよ。着いた先が目的地だ」と葵さんは明るく笑う。


着いた先が―――目的地。それは何だかとてもロマンチックな響きに聞こえた。


でも相手は葵さんだ。言い慣れてるだろうし、そこに深い意味なんてないだろう。


とりあえず国道を適当に走らせていると、やがて八王子ICのマークが出てきた。ここまで来たのならたまには高速を使うのもいいかもしれない。じゃないと燃費も伸びないし。


何も考えず高速の入り口に入ると、


「高速?どこへ行くの?」とまたも葵さんが聞いてきた。


「さぁ?着いた先が目的地でしょう?」あたしが言うと葵さんはシートに深く背を預け


「ヤッベ、すっげぇわくわくしてきた♪」と言って着ていた黒いダウンの両ポケットに手を入れた。


途中、狭山PAでタバコ休憩をしたくて車を停めた。タバコを吸わない葵さんはあたしの隣に居て白い息を吐きながら


「瑠華ちゃんて意外に運転うまいね」と言ってきた。


意外とは何よ、とは思ったけれど顔に出さず黙ってタバコを吹かせる。


あれからだいぶ時間が経っている。外にしつらえられた喫煙コーナーにはこの時間帯、出張中なのかサラリーマンらしき人や、これから荷物を運ぶのかいかにもトラック運転手だと思われる男の人達でいっぱいだった。その中でこの異色のあたしたちは目立つ。


「ヤベ、めちゃ可愛くない?モデル?隣の男もアイドルっぽいし」

「バカ、モデルがタバコなんて吸うか?」

「バカはそっちだよ。昨今のモデルだってタバコぐらい吸うって」


ちらちらと男性たちの視線が気になったが、気にしない素振り。生憎だがあたしはモデルでも何でもない。ただのOLだ。


タバコを吸い終えるとあたしはお手洗いに行きたいと葵さんに申し出た。


お手洗いに向かう途中


「ねぇ、さっき男たちが瑠華ちゃんのことじろじろ見てたよ。俺が居なかったらナンパされてたよ」と葵さんが面白くなさそうに唇を尖らせる。


「そうですか、でも誰になびくつもりもありませんがね」


「ってことは一緒に居る俺は特別ってこと?」と葵さんがにかっと笑う。


このひとは―――どこまでポジティブなのかしら。


まぁ今のあたしにはこのポジティブな性格の人が必要だから悪くはないけれど。
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