Fahrenheit Ⅳ

「大体さー、昔は女から返信が来なかったりしただけで落ち込む俺らじゃなかったよな」


裕二を見ると、裕二はうんうんと大きく頷いた。


大体、恋程非生産的で非効率的なものなんて面倒このうえないとさえ思ってたのに。


今、俺は瑠華からメッセージの返信がこないだけでこんなに悩んでいる。


これが本気の恋―――ってヤツか。


「この、元遊び人二人が」と綾子が痛いものでもこらえるように額に手をやった。「私だって裕二に返信しないことあるわよ」


「だって綾子は秘書課だし、忙しいの分かってるから」


裕二と綾子の仲には深い絆があって歴史もある、それは揺るがないことが分かった。


でも俺はやっぱり不安だ。


大体瑠華からは多少のタイムロスがあるものの返信はしてくれたのに。


「そう思ったら二村と瑞野さんて凄いよな。あいつら中学からの付き合いだろ?どうしたらそんな長く想ってられるんだろう」


まぁ?俺もこの先ずっと瑠華を想い続ける自信はあるが。自信だけじゃ何ともならないこともある。


「でも、どこで二村は変わっちまったんだろうな。やっぱ長く居るとこう……倦怠期的なもの?があるんかな」と裕二が難しいものを考えるように首を捻った。


「人は簡単に変わらないわよ。二村くんは元々野心家だったのよ。タイミングよく緑川さんが自分に好意を寄せてるってことに気づいてそれを利用しようとしただけだわ」


「それで瑞野さんから緑川さんに乗り換えて?サイアクだな」


裕二が顔を歪める。


「サイアク度合いだったら俺らもそうじゃね?お互いマジで惚れた女ができたから今までの女を切って」


「ホントね」と綾子が苦笑い。





「でも、あんたたちは私たちを利用しようとしなかったじゃない。ただ、ただ好きでいてくれただけ」



綾子……


「綾子ぉおおおお!」俺は思わず綾子に抱き着きたくなったが、裕二が綾子を抱き寄せ、俺に足蹴をかました。


「綾子に近づくな!お前、女だったら誰でもいいんかよ」


「そういうわけじゃない」クスンと泣き真似をして「やっぱ俺も飲む。ビールくれ」


「え?車は?」と綾子に聞かれ


「代行頼む。飲んでなきゃやってられねーよ」と俺が目を吊り上げると


「啓人、怖いわよ」と綾子は苦笑いを浮かべながらも、キッチンからビールの缶とグラスを手渡してくれた。


俺はビールのプルタブを開けるとグラスに注ぐことなくそのまま缶に口を付け一気に半分程飲み干した。


この苦い感情を飲み込むように、そしてその味はやはり俺の心情と同じ苦い味がした。

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