Fahrenheit Ⅳ

「裕二、言っておくけど瑞野さんの妊娠は……」と綾子が切り出し、裕二は両手を挙げた。


「分かってるって。誰にも言わないし言うつもりもない。桐島は何となく気づいてるっぽいけど、あいつだってそう簡単にどこかに吹聴するヤツじゃないし。でもこの状況で瑞野さんはどうするつもりなんだろう。二村と寄りを戻すことはもうないだろ?だってあいつ緑川さんと結婚するし。一人で産んで育てるつもり?」


俺は頷いた。


「本人はそう言ってる」


「俺、子育てのことは経験ないからよく分かんねぇけど女一人で育てるのって大変じゃね?」と裕二が眉を寄せる。


「それでも産むって」と俺が言うと


「それは二村くんとの子だからなのか、母性なのか、どっちなんだろう」と綾子が首を傾ける。


「知らね」そっけなく答えると


「柏木さんのときはどうだったの?」と綾子が残酷なことを聞いてくる。


「さぁ……よく知らないけど、瑠華の子供が生まれた時はまだ夫婦仲がうまくいってたときだったし、マックスも楽しみにしてたって」


「そう…」と綾子が答え、俺は話題を変える為


「もし、今お前らに子供が出来たらどうするつもり?」と聞いてみた。


裕二と綾子は顔を見合わせ、


「私たちは、その……まだ時期じゃない気がするし気を付けてるから……」とちょっと顔を赤らめて言う。


考えたら答えにくい話題だよな。


「俺も綾子も今仕事が軌道に乗ってきた所だし、そう簡単には、な」と裕二が綾子を見ながら苦笑。


そうだよな。仕事と子育ての両立は難しいだろうし、女の方は産休も育休も取らなきゃならない。育休は無理に取る必要はないが、やはり産まれたばかりの子供の世話は母親がした方がいいに決まってるし。


「で?柏木さんの話題に戻るけど」と綾子が話を戻した。「これからどうするつもり?」


どうするって言われても……


その術を教えて欲しいからここに来たわけで…


「鬼のようにメールしまくったら?」と裕二が意見したが


「そんなことしたら逆効果だ。鬱陶しい男嫌いそうじゃん」


「まぁ確かにね」と綾子が頷く。「押してもダメなら引いてみたら?しばらく静観するの。相手の出方を見守ることもたまには必要かもよ?」


そうは言っても、車の中で口紅を直す瑠華を見ただけで心穏やかでいられない俺ができるのか……


結局、答えはでないまま夜10時頃になって俺は裕二の家を後にすることにした。


瑠華―――


今頃どこで何してるんだろうな。


空を見上げると、きれいな三日月が浮かんでいた。


せめて、この月を眺めていてくれたら、それだけで繋がれる気がする。

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