Fahrenheit Ⅳ
レンジの音が鳴って、湯気の上がったおかゆができあがった。葵さんはよたつく足でコンビニの袋からプラスチック製のスプーンを取り出そうとしたが、あたしがそれを手伝った。
「とりあえずあなたは座っててください」と言うと葵さんは大きな目をぱちぱちさせながらも大人しくテーブルの前で胡坐をかいた。
あたしはレンジから熱い器のおかゆを取り出し、プラスチックのスプーンからこれまたプラ製の袋から取り出し、葵さんに手渡した。
「本来なら手作りのおかゆがいいですけどね、生憎料理は苦手で」と無表情に言うと
「ははっ、分かってるよ。でもこうやって来てくれただけで嬉しい」と葵さんは笑う。
マスクを外してプラスチック製のスプーンでおかゆを掬いすぐに口元にやった葵さんは「熱ち」と声を上げ、顔を歪めた。
「そりゃそうでしょう。できたてですから」と言ってあたしがスプーンを葵さんから奪うと自らの呼吸でふぅふぅとおかゆを冷ました。昔、ユーリが熱を出すたびに野菜たっぷりのリゾット(これだけは作れた)に息を吹きかけ食べさせたものだ。
今頃、ユーリはどう過ごしているのか……ふと気になったが慌てて頭を振った。
「これぐらいでいかがでしょうか」と葵さんの口元にスプーンを持っていくと葵さんの顔が赤くなった。
まだおかゆを食べていないのに?
「……何か、俺たち恋人同士みたいだね」
…………
たっぷり間を置いて
「は?」あたしは冷めた目で葵さんを見た。
「だってこんなことしてくれるの、俺に好意を持ってくれる人だよ?」
「私はあなたのことをそれなりに信頼していますが、今のあなたは私の子供みたいです」
そっけなく言うと
「子供ぉ?」と葵さんは心外そうな顔で、それでもおかゆを口に入れた。「うん、うまい」とただの梅がゆ…しかもコンビニで買ったレトルトのおかゆを口にして葵さんは破顔。
「食欲はあるようですね。それを食べたら薬を飲んでください」
機械的に言ってドラッグストアで買った風邪薬を取り出すと
「瑠華ちゃんてさ~、やっぱ優しいのな」
”優しい”の連発はどうとっていいのか分からない。これが葵さんの通常なのだろうか。
でも”優しい”の安売りは好みではない。
だってあたしは―――優しくない。