Fahrenheit Ⅳ


「助かりました。ありがとうございます」と礼を述べると、紫利さんは苦笑。


「大したことしてないわ。これぐらいのことならいつでも呼んで」


「とりあえず……材料費…」あたしはバッグに入ったままの財布を取りに行こうとしたけれど、紫利さんはその腕を掴んだ。


「好きでやったことだから、気にしないで」


「でも流石に……」


スーパーに寄って買い物してくれた上、料理も作ってくれたわけだし、全くの無償と言うわけにはいかない。


「気にしないで」と紫利さんは言うけど……


「それよりこれから会社はどうするの?ユーリちゃんが一緒だと長く家を空けてられないでしょ?」


そうなのだ……


マックスが預けてくれると言ってくれたときはそれ程考えていなかったけれど、料理一つできないあたしにユーリの面倒と仕事の両立はできるのだろうか…


今頃になって不安が波のように押し寄せてくる。


「とりあえず、上に掛け合ってみます。時短勤務にしてもらって、あとはシッターさんを雇おうかと…」


「そうね、上司に相談するのはいいことだけど、英語ができるシッターさんてそう見つかるもの?」


そこが頭を悩ませるところだ。まだ調べてないから分からないけれど。殆ど見ず知らずの人を家に入れるのも抵抗がある。


「良かったら、瑠華ちゃんが仕事してる間、私が面倒みるけど」と紫利さんが言い出して


「いえ!それは流石に!」


悪い……と言い出す合間に


「蒼介も殆ど家に帰ってこないし、暇な主婦には可愛い子供と遊んでいる方がずっと楽しくて有意義だわ」


それは―――もちろん紫利さんなら間違いなく問題ないけど、でもやはり悪い気がする。


申し訳なくて、何て答えていいか分からず顔を俯かせていると、紫利さんはスマホを取り出し誰かに電話を掛けた。


「もしもし?蒼ちゃん?今日ちょっと時間ある?」


相手は―――ご主人?


< 128 / 130 >

この作品をシェア

pagetop