Fahrenheit Ⅳ
――――
――
「え!マジで!副しゃちょーの娘の方から?」と葵さんは目を丸めている。
「ええ、クリスマスの晩のファックスの件ですが、あれが緑川さんにバレたようで。今彼女は不信感でいっぱいです。それで」
「まぁ……普通に考えりゃそうだよな」と葵さんも苦い顔つきで顔を歪ませた。「逆だってそうだもん」
それはそうだ。
「今後、二村さんがあなたに何らかの相談があるかもしれません」とあたしが切り出すと、葵さんは自分を指さし「俺に?」と目をぱちくりさせた。
「ええ、この計画を知っているのはあなたとミミちゃん以外誰も知らない筈。しかしミミちゃんの心も離れて行ってしまえば頼れるのはあなたしかいません」
「あいつが俺を頼るかなぁ。何せバカで何もできないから」葵さんは自身がなさそうに頭の後ろを掻く。
「葵さんはバカでも何もできない人ではありません。私はあなたにたくさん助けられました」
と言うと葵さんは大きく目を開いた。
本当のことだ。ジェイクと接触したことを教えてもらったし、瓜生常務の隠し子が二村さんだということも葵さんの分かったことだし。あたし一人だと辿り着かなかっただろうし、ジェイクのとの仲を疑われ続けていたであろう。
「俺、瑠華ちゃんの役に立ってる?」
探るように聞かれあたしは大きく頷いた。
「ええ、大いに」
葵さんは満面の笑顔を浮かべて顔を上げる。
「しかし、まだ油断は禁物です。何せ二村さんは人の心に入り込むことが得意なので」真剣な目を上げると、葵さんの喉がごくりと鳴った。「きっと緑川さんの心が解けるのも時間の問題ですね。それまでに少しでも早くこちらの計画を勧めなくては」
「計画?」
「ええ、二村さんを完全に潰す、という計画です」
随分物騒な物言いになったが、これが本心だ。
帰る際、
「本当に病院に行かなくていいのですか?」と聞いたが葵さんは首を横に振った。
「大丈夫、大丈夫~ただの風邪だから。てかひっさしぶりに風邪ひいてて弱っちゃったところ見せちゃって何か恥ずかしいな」
そう言う問題かしら?まぁ昔から何とかは風邪をひかないって言うし葵さんが大丈夫って言うのなら大丈夫なのだろう。
それでも
「何かあったら連絡くださいね」と言い置き、
「うん、ありがと」葵さんは元来の顔色を戻して明るく頷き「あ、あのさカウントダウンのこと……」と言い出した。
ああ、以前も同じこと言っていたような……
でもあたしは誰も一緒にカウントダウンする気がない。その意思が伝わるように目を上げると、それを汲み取ったのか、或いはスルーしたか、それとも汲み取ってないのか
「また連絡する」と葵さんは寂しそうに笑った。
これで―――良かったのだ。あたしの間に誰か入り込む隙は今一人誰もいない。
例え、啓でも―――?