Fahrenheit Ⅳ
外は冷える。このまま瑞野さんを立たせたままだとお腹の子に影響があるかもしれない。仕方なしに俺は瑞野さんを部屋に上げることにした。
それでも瑞野さんが部屋に入る際、俺がキョロキョロと辺りに視線を這わせていると
「二村くんは知らないです。言ってません」
と瑞野さんは苦笑。
「そっか……あれから二村とは?喧嘩状態?」リビングに通して聞くと
「喧嘩って言うか口も利いてません。電話もメールもスルーしてて」と瑞野さんは紙袋を置いてコートを脱いだ。
今日は白いコートに白いニットワンピだったが、お腹の辺りを何気なくみるとまだ膨らみを感じなかった。相変わらず内蔵が詰まってるのか謎な程細い。
べ、別にいやらしい目で見たわけじゃないぞ!
「でも、このまま二村に隠し通せるの?お腹も膨らんでくるだろうし。お母さんには?報告した?」
言いたい事を一気に言うと瑞野さんはそのどの質問にも首を横に振った。
「お腹が膨らんでくると二村くんにバレますよね」
「そりゃそうだろ、で気づかれたらどーするの?俺の子だとでもいう気?」そしたら今度はファックスでムショ行きどころじゃねぇかもな。と若干うんざりした表情をかくせずため息をつくと
「それは流石に!そこまで部長に迷惑はかけません。誓って」
ホントかよ。今はそう言ってるけどいざとなれば俺を利用する気じゃねーの?と俺はやっぱりまだ瑞野さんに対する疑惑を払拭できないでいる。こんな俺は心が狭いのだろうか。
「すみません、でも本当にこれ以上部長に迷惑を掛けるつもりはありません。信じて欲しいと言ってももう信じてもらえないだろうけど」
ああ、信じられない。と本心は口にできなかった。
「これ、デパートで有名なお菓子です。甘いものお好きかどうか分からなかったですけど結構人気で」と瑞野さんは紙袋から包装紙に包まれた菓子のようなものを取り出した。「中はフィナンシェです」
マドレーヌじゃないんだな……
フィナンシェは嫌いじゃないが、そう大量に食べられるわけでもない。裕二たちがカウントダウンパーティーを開くって言ってたからそのときにでおすそ分けするか。
なんて考えていると
「あの……部長はカウントダウン…もう決まった人とするつもりですか?」
「うん、裕二と綾子と桐島ファミリーと同期たちとする予定」
嘘はついていない。これで瑞野さんも諦めてくれるだろうか。
『あたしも一緒にいいですか?』と言われたらどう断る?と考えていたら
「そうですか…それは楽しみですね」と瑞野さんはちょっと無理やりと言った感じで笑った。
ほっ、とりあえずは助かった。