Fahrenheit Ⅳ
「あ、俺お茶も出さずごめん」
慌ててソファを立ち上がると
「いえ、今日はこないだの謝罪に来ただけなので、あたしももう帰ります」
え?今日は随分あっさりしたものだな。
二村のファックス事件で色々懲りたのだろうか。それとも反省した?
分からん。瑞野さんが分からん。
しかし瑞野さんは俺が疑問を浮かべているのを露知らず、コートに腕を通してもう帰る支度をしている。
今日は―――本当に謝る為だけに来たのだろうか。
しかし瑞野さんの魂胆が見えず俺は彼女を送り出した。
瑞野さんが帰って行き、俺はソファにドサリと身を沈めた。
つ、疲れた――――
時間にして十分程だったが一時間も二時間にも感じられた。
こんなとき―――瑠華の笑顔を見られたら―――
こんな疲れなんてあっという間に吹っ飛ぶだろうな。
会いたい。
瑠華。
そんなときメール着信が来た。
瑠華かな、と一瞬ケータイを握る手が震えたが
相手は紫利さんだった。
”ヤッホー、ケイト。何してる?”と相変わらずの内容に何故か頬が緩む。瑠華程ではないが疲れが少し吹き飛んだ。
”今一人寂しくテレビ見てる。つまらないグルメ番組”
と送り返すと
”それって今流行りのアイドルの男の子が料理をするってヤツ?”と返事がすぐ返ってきて
”うん、そう、それ。大して勉強にもならねー”
”あなたは料理が上手だしね。それにこのアイドルよりあなたの方がずっとステキ”
内容だけ見てると恋人同士のようなメールのやり取りだが、俺たちはそんな仲じゃない。
”ね、今出てこれない?暇してるの”と来て
え??今?
まぁ俺も暇してるっちゃしてるけど。珍しいな。紫利さんから大した理由なく誘われるなんて。
俺はOKの返事を返して銀座近くの高級ホテルのラウンジで会うことを承諾した。