Fahrenheit Ⅳ

年末のスーパーは正月用の買い物客で混みあっていた。スーパーで刺身や天ぷらや出汁巻き卵、小さいおせちセットなんかを買っていてふと思い立った。俺は携帯を取り出すと裕二に電話を掛けた。


「裕二ー、今日お前ンちに行くとき何かいるもんある?今スーパーで買い物なう」


『おう、助かるけど桐島が色々用意してくれるって』


そっか……桐島ファミリーも来るんだったんだ。


「分かった。じゃぁ酒だけでも」と言って、俺は目撃した。こないだ俺に衝突してきた『ユーリ』あの子が父親と母親に手を繋がれスーパーの刺身コーナーに居るところを。確かに父親は俺と背格好が似ていた。間違えるのも無理がないかぁ。


あの子は勿論瑠華の『ユーリ』じゃないが、その光景が何故だかすごく幸せそうな家庭に見えた。


俺の手に握られたスーパーの籠が手から摺り落ちて中が籠から転がり落ちたのすら気づかず、茫然とした。


瑠華もマックスと別れなければ、ああやって三人仲良く買い物をしていた日々が待っていたかもしれない。


ショックを受けたわけではない。


何を想っていたのか自分自身すら分からない。





「裕二、ごめん。今日行けなくなった」




気付いたらそう言っていた。


『え!?今更何いってるんだよ』裕二が声を低めた。『綾子の機嫌をとる為にお前、協力してくれる筈だろ』


「そんな約束をした覚えはないけど。とにかく急用ができた」


急用―――なんて嘘だ。


家に帰った所でどうせ一人だ。がらんと空虚な空間に一人。


何故だか急に泣きたくなった。


瑠華――――会いたいよ。


ほぼ強引に裕二との通話を切って、俺は買い物もせず一人家に帰った。


寂しい


悲しい



辛い




泣きたい。




故坂本九の歌で『上を向いて歩こう』って曲があったな。あれ、結構好きだった。前向きなあの歌が。


でも実際上を向いても涙が出てくる。止まらない。


俺は何故こんなにも悲しいんだろう。


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