Fahrenheit Ⅳ
『啓は……何をされていたんですか?』
久しぶりに話す世間話。嬉しい筈なのに、俺の一日なんて中身なんてなくてみっともなくてとてもじゃないが喋られない。
「俺は寝てたり、大掃除したり?」
疑問形になるのは半分本当で半分嘘だからだ。後ろめたさからあれこれ言い訳を考えようとしていたら
『そうですか。あ…そろそろ日付が変わりそうですね』
瑠華の言葉にテレビを見ると男女のアイドルたちが『あと少し~!』と叫んでいた。
『ここから眺める景色、案外良いものですね。一人でも。東京の街がまるで宝石みたい』と瑠華が声を和らげた。
「え、いいな~俺んとこはそこまで高くないからそれほど景色もよくなくて」
俺は窓際に歩み寄るとカーテンを開けた。ここいら一帯は俺のマンションより背が高いマンションがいくつも建っている。
「46階からの夜景かぁ、それはきれいだろうね」と何気なく言うと
『見ます?』と瑠華が聞いてきた。
え!そりゃ見たいけど、今からそこへ向かうわけには……それに今二人っきりは。
『リモート通話にしませんか?』
なるほど、そう言うことか。
俺は慌てて電話をテレビ電話に切り替え、瑠華もほぼ同時に切り替えたのだろう。
スマホの位置でも確認しているのだろうか、最初瑠華のアップが写されて、ドキリと心臓が強く鳴った。
風呂上りなのだろうか、その顔には化粧が乗っていなかったが相変わらず可愛い。アイボリーホワイトの恐らくシルク素材のキャミスリップにミルク色のガウン姿。
エロ……じゃなくて色っぽい!
『これぐらいで見えるかしら』
グラスか何かを衝立にしたのだろう、瑠華はスマホを固定したようで、広い窓に歩み寄りカーテンが開いた窓際でシャンパングラスに入ったシャンパンを傾け、それを一口飲みながら
『どうですか?見えます?』と聞いてきた。
「う、うん!すっごいきれいだね」
正直、夜景なんてどうでも良かった。窓にもたれかかる瑠華が憂いのある瞳で東京の街を見下ろしている。
それを見れただけで、幸せだ。