Fahrenheit Ⅳ
『あ、もうカウントダウン始まりそうですね』瑠華がちょっと顔を上げて恐らく部屋の時計でも見ているのだろう。
『Ten、Nine…』と数え始めた。
俺もそれに倣って
「8、7…」と続けた。
やがて
『Three、Two…』
「3.2……」
『One。Happynewyear』
「1…明けましておめでとう!」
夢にも思わなかった。こうやって瑠華とカウントダウンができるなんて。
さっき散々泣いたって言うのにまた涙がこみ上げてきそうだった。
『どうしたんですか……目が赤いようですが…』
瑠華がまた近づいてきて、恐らく俺の顔が映っている画面を覗き込んでいる。
「あ、いや……寝起きって言うか…」と俺は適当に誤魔化した。
幸せ過ぎて―――とはまだ言えない。
俺にとっては意味があるものだったが瑠華にとっては意味があるものだったのだろうか。
考えたってしょうがないが、俺はこの瞬間心の中で幸せをかみしめた。
『啓は明日何かする予定ですか?』
「え?明日って元旦だよね」
『ええ、おじさまのおうちに行かれるとか』突如として聞かれて
「あー、ないない。元旦だろうがしばらくあの家には帰ってないし」
『そうなんですか、では明日うちに来ませんか?』
へ!?何を仰ってるんですか、瑠華さん。
『あ、勿論二人きりではありません。佐々木さんと緑川さんも誘っています』
佐々木と緑川もぉ!?
何だ、その変な組み合わせは。
『実は紫利さんから立派なおせちをいただきまして一人で食べきれないのでお二人をお誘いしたのですが』
ああ、なるほど。そう言ういきさつね。
てか元旦も緑川は二村と一緒じゃないってことはまだ喧嘩中ってことか。
「行っても―――いいの……?」
探るように聞くと
『以前の外資のメンバーで楽しく元旦を過ごしましょう。二村さんに探られても以前のメンバーでパーティーしてました、と言えば問題ないでしょう』
瑠華が優しく微笑んだ。
それだけでノックダウンしそうだったが、佐々木も、ついでに喧嘩中の緑川も居たら瑠華と会っても問題ないか。
「じゃぁ行く」
俺はさほど考えずに即答していた。
瑠華と元旦を過ごせると思ってなかったから、すっげぇ嬉しい。
嬉しすぎてまた涙が出そうになったが、慌てて目を擦り
「じゃぁ明日」と言って通話を切った。
『ええ、明日』
それは明日につながる約束。いつからその約束はなくなったのか。考えたらすごく長い時間だったが、いつか俺は必ずそれを取り戻して見せる。