Fahrenheit Ⅳ
「啓は……何をされていたんですか?」
啓の一日、一日。会社が休みの日、彼が何をしていたのか気になる。前は昼近くまで寝て啓の作ってくれたブランチを向かい合って食べながら、笑い合った。その後出かけることもあったし、家で一日映画を観て過ごした日もあった。その日々が懐かしい。
『俺は寝てたり、大掃除したり?』
大掃除……あたしは大掃除をするのが面倒で昨日業者に頼んでやってもらった。啓が居たらうちの大掃除も手伝ってくれたかな?
なんて思いながらふと顔を上げると壁掛け時計の秒針が残り10秒と少しと言うところだった。
「そうですか。あ…そろそろ日付が変わりそうですね」
啓も一人で居るのか、明らかにテレビと思われる音声で若い男女が『あと少し~!』と叫んでいた。
「ここから眺める景色、案外良いものですね。一人でも。東京の街がまるで宝石みたい」
嘘。ホントはイミテーションの宝石にしか見えない。おもちゃでできた夜景のようだ。
けれど啓はそんなあたしの心情を知らず
『え、いいな~俺んとこはそこまで高くないからそれほど景色もよくなくて』と声を低める。『46階からの夜景かぁ、それはきれいだろうね』と聞かれピンと来た。
「見ます?」あたしは殆ど何も考えず聞いていた。「リモート通話にしませんか?」
自分でも咄嗟に良く考えたと思う。電話なら―――二村さんに邪魔されることもない。顔を見るだけなら―――
あたしは近くにあった実家から送られてきたクリスマスプレゼントの詰まった段ボールの上に、帰ってきて飲んだコーヒーのマグカップをスタンド代わりにしてスマホの位置を確認した。夜景が見える位置に。
これぐらいなら、見られるかな…と思って調整していると啓の姿が画面に映った。たった二日会ってないだけなのに随分久しぶりに思えた。しかしその顔色はすぐれないもので目が赤くなっている。風邪でもひいたのだろうか、と心配になったが必要以上に干渉しては啓の負担になるだけ。
「これぐらいで見えるかしら」あたしは何でもないフリで啓に問いかけた。
そして広い窓に歩み寄りカーテンが開いた窓際でシャンパングラスに入ったシャンパンを傾け、それを一口飲みながら
「どうですか?見えます?」と聞いてみた。
『う、うん!すっごいきれいだね』
あたしも―――今、初めてきれいだと感じました。
イミテーションではなくそれがホンモノだと、感じました。