Fahrenheit Ⅳ

風呂場を覗いては


「わぁ!プールみたい!」と声を上げ、そう言えば今朝入ったときジャスミンブルーの入浴剤を入れたまま湯を抜かずにいたことをすっかり忘れていた。見ようによっちゃその色がマリンブルーに見える。それが少し開けた窓の風を受けて僅かに波打っている。まぁ見ようによっちゃプールに見えなくないわけではないけど。その色が天井に反射して海のように波打っている。


「それより早く着替えを済まされては?あと少しで佐々木さんも来ますよ」


「あ、そうだった」とあたしは緑川さんをパウダールームに案内して着替えるように促した。そこでも緑川さんは


「すっごい!映画に出てきそう」と感動していた。


そう大したことではない。あたしたちが過ごしていたヴァレンタインの別宅に比べればまだまだ質素な方だ。


緑川さんが着替えて出てきてから、まだ時間も余っている。


ひとまずあたしは緑川さんに紅茶を出すことにした。


「わぁいい香り。カップもオシャレ♪」と緑川さん何をしてもはしゃぐ。その姿がまるで子供のように見えて可愛い。


「ところで、まだ二村さんと仲直りする気は?」あたしは緑川さんの隣に腰かけ聞いてみた。さっきまでご機嫌にはしゃいでいた緑川さんの顔色に翳りがかげった。


「―――今はまだ考えられません」


それはそうだろう。


「直接浮気を見たわけじゃないですけど、部長にとった行動は完全に心の浮気じゃないですか」


心の浮気―――


「好きな人の心の中にはずっとずっと好きな人が居座っているんです。そんな状態で何事もなく一緒に居られます?」


「確かに、それは辛いですね」


勿論、そう仕向けたのはあたしだが緑川さんにはキツイかもしれないけれど現実を知ってもらいたい。


このまま何事もなかったかのように結婚―――と、緑川さんもそれ以前から結婚に関しては悩んでいたみたいだが今回の件が徹底打になったみたいだ。


「やっぱり二村くんはパパの座が欲しいだけで葉月に興味なんてないんですよ」緑川さんは盛大にため息を吐いた。


いいえ、緑川さん。彼にはその後にもあなたやあなたの父親に最も打撃のある方法で会社を乗っ取ろうとしている悪魔です。


でもそれは今言えない。


「でも次の株主総会ではあなたとの結婚という彼の計画が絶対的に必要」


「そうですけど……」


「その時に盛大にフってやっては?最高の復讐になるんじゃないですか?」ふふっと喉の奥で笑うと緑川さんはちょっと引きつった笑いを無理やり浮かべ


「柏木補佐ってやっぱり怖いですね…」


「私はそれ程でも。でももっと怖い人間をたくさん知っていますのでね」何事もなかったかのように紅茶に口を付けると


「柏木補佐より怖い…ってどんだけ?」と緑川さんは目を丸め、


そのときだった


ピンポーンとインターホンが鳴ったのは。

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