Fahrenheit Ⅳ
一瞬、啓かしらと胸が高鳴ったが、エントランスロビーのモニターを見ると佐々木さんだった。別に……がっかりしたつもりはないわよ。佐々木さんに失礼じゃない。佐々木さんはネイビーのダッフルコートに同じ色の色地に黄色のチェック柄のマフラーを巻いていた。どこか居心地悪そうにきょろきょろと視線が泳いでいる。
「はい、今開けます。部屋は開けておきますのでそのまま入ってきてください」とエントランスロビーの自動扉を開けると、
『は、はい!わかりました!』と佐々木さんが見るからに緊張した様子で頷く姿が見えた。
緑川さんは淡いピンクのちょっとだけ肩空きニットに、それより少し濃いピンクのレース素材のスカート姿で
「ねぇねぇ柏木補佐、あたしの恰好変じゃないですか?」と今更ながら聞いてきた。
「可愛いですね、良くお似合いです」と言うと
「は、張り切り過ぎかなぁ……元旦だから特別感出したくて」
「ステキですよ」と言うと緑川さんは子供のように満面の笑みを浮かべた。確かにいかにもイマドキ風の緑川さんにその服は良く似合っていた。あたしには似合わないけれど。緑川さんは本来とても可愛い子なのだ。出逢った頃は片肘を張って何かと突っかかってきた、そのときはこんな風に思う日が来るなんて思いもしなかった。
ピンポーン、またもインターホンが鳴って、しかし今度は部屋のインターホンだった。
「佐々木さん開いてるって言ったんですけど」と扉を開けると、ぎくしゃくと緊張した佐々木さんが立っていて
「だってこんな高いマンション始めて来ましたから」と言ってぎこちなく頭を下げながら「あ、明けましておめでとうございます」と言った。
「明けましておめでとうございます」と返したが
「あ、佐々木さ~ん、明けましておめでとうございま~す」とあたしのすぐ背後で緑川さんがぶんぶん手を振っていて、佐々木さんは苦笑い。
あとは啓だけか。