Fahrenheit Ⅳ

彼は約束の時間になっても現れなかった。


もしかしてドタキャン?にしても連絡がくるはずなのに。途中で何かあったのかしら。心配だったけれど過剰に心配すると二人に不審がられる。


仕方なしにあたしはテーブルにおせちの重箱が入った風呂敷包みを置き、それぞれに取り皿、アルコールなどのグラスや箸を並べていると


エントランスロビーのインターホンが鳴った。


モニターで確認すると啓は肩で息をしていて


「ごめん!寝坊した!」と素直過ぎるぐらいに謝ってきた。


単なる寝坊?良かった、何かあったかと心配してたから。


佐々木さんと同様、部屋を開けておくから入ってくださいと伝えると彼は頷いた。


ちょうど食前酒のシャンパンを用意しているときだった。


「明けましておめでと~」と啓がリビングに入ってきた。啓は白いセンタープレス入りのジャケットと黒いパンツ、インナーも黒で全体的にシンプルな服装だった。しかし資材や仕立ての良いアイテムが質の高さが際立ち、余裕を感じさせるスタイルに仕上がっている。


しかしあたしと御揃いのリングは首に掛かって―――と思っていたら、V開きニットの間からチェーンが見えた。あたしも―――まだ啓と仲が壊れる前同じリングをしていたから佐々木さんにバレるとでも思ったのだろうか、敢えて隠してきたように思えた。


「明けましておめでとうございます」とあたしは頭を下げたが、佐々木さんは


「部長……何かすっごく慣れてません?まるでここに来たのが初めてじゃないみたい」


啓の心の中からギクギクゥと声が聞こえた気がしたが


「この人はいつもこんな感じじゃないですか」と冷めた目で言うと


「それもそうですね……」と佐々木さんは納得したのかしてないのか。


事情を知っている緑川さんはちょっと笑いを堪えている。


こうしてメンバーは全員揃った。


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