Fahrenheit Ⅳ
紫利さんが買ってくれた、というおせちはそれは見事なものだった。
「すっごい!あわび丸々一個入ってる」
「ローストビーフも美味しそうですね」
その他黒豆や伊達巻、金箔がまぶしてある数の子、昆布巻き、紅白かまぼこ、筑前煮、くりきんとんや友禅海老等おせちの定番も入っていたが、いくらやステーキのキャビア添え、サーモンやうになんかも色とりどり飾られていて眩しい程だった。
俺の作ってきたターキーや生春巻きが可哀想なぐらいだ。
それでも
「あの……瑠…柏木さん、これ作ってきたんだけど」とリビングではしゃいでいる佐々木と緑川の気配を気にしながらキッチンでまだ小皿なんかを用意していた瑠華に差し出すと、瑠華は大きな目をパチパチ。
昨日は化粧が乗ってなかったが今日はキッチリメイクをしてある。くっきり二重に淡いピンクのシャドー、アイラインは主張しない程のブラウン系、頬は淡いピンクのチークが乗っていて、口紅はピンクのグロス。俺はどっちも好きだけど、くぅ……可愛いぜ!
「え……これ、け……部長が…?」
「うん…ごめん、あんな豪華なおせちの前では出せる代物でもないけど」と言っている間に瑠華は勝手に紙袋をがさごそして中身を出し
「わぁ、すごいですね。すっごく美味しそう。みなさーん、部長が差し入れを」と佐々木と緑川を呼び寄せた。
「わぁ!てっさ!僕大好きなんです」
佐々木が手を叩いた。お前の好みは聞いてない。
「てっさ?」と瑠華が首を傾げ
「ふぐの刺身。ポン酢と紅葉おろしで食べるんだ」と説明すると
「ふぐ!」と瑠華が目を剥いた。「少し前に読んだ小説で、結婚した夫に多額の保険金を掛け、ふぐ毒で殺してしまうって本を読んだんですよ。殺した妻は毒が入っていることを知っていながら警察には知らなかったっと通して」両頬を手で覆い顔を青くしている。
てか瑠華…なんつー本読んでるんだよ。今後の予習か?俺を殺す、という。
「大丈夫ですよー、ふぐ毒で死ぬなんてことないですから」と佐々木がカラカラ笑う。
「そうそう、ふぐを扱えるのはちゃんと免許がない人じゃないとさばけないんですよー」と緑川。
「これは親父が送ってきたのだから最高級だと思う」と言うと瑠華も納得したのか小さく頷いた。
テーブルは三段重のおせちと俺が作ってきたターキーと生春巻き、親父が送ってきたてっさでいっぱいになった。
まずはシャンパンで乾杯。
「「「明けましておめでとうございま~す」」」
「ます」(←瑠華の声)
さぁパーティーの幕開けだ。