Fahrenheit Ⅳ
「おい、佐々木、起きろ」俺が佐々木を揺らすとぼーとした目をうっすら開け佐々木が目を擦った。
「あれ?ここは……」
「柏木さんちだ。お前飲みすぎ」と指摘すると佐々木はガバっと身を起こした。
「ぅわー、僕また寝ちゃったんですか、柏木さん怒ってませんか?」と佐々木は顔を覆った。
「怒ってないよ。そっとしておいてやれって」
「ぅ゛う゛、柏木さん優しい…」と今度は泣き真似。
「いいから早く起きろ。あんま長居すると迷惑だろ」
「そ、そうですね。あ…いつの間にかテーブルもきれいになってる…」
「それも柏木さんと俺で片づけた」
「ううわ、僕サイテーですね」とまた顔を覆う佐々木。お前、忙しいヤツだなー
「別に最低じゃねーよ。元々俺も止めなかったし」
「部長……」佐々木がうるうる目を揺らして今すぐ抱き着いてきそうな勢いだったが、俺はそれを何とか避けた。
マジでキモイからやめろ!
そう言うわけでお開きとなったわけだが帰る緑川を見て俺は思わず吹き出した。佐々木も笑いを堪えている。
「何、そのかっこ」
確かにダサいな。
「二村くんにバレないための変装ですよ」と緑川が目を吊り上げる。「葉月だってこんなかっこしたかったわけじゃないのに」
なるほど、変装か。瑠華の案だろうな。
そして俺と佐々木は同じタクシーに乗り込み、緑川だけ違うタクシーで帰って行き、今日の楽しい一日はあっという間に終わっちまった。
楽しくもあったが、その分反動で寂しさで胸いっぱいになる。
その日家に帰りついても、飲み足りなかったわけではないが一人酒。演歌になりそうな一人酒は寂しさをより増長させた。
でもでも明後日はまた瑠華と会えるし。
と、また前向き発想で俺はぐいと焼酎を煽った。
次の日、瑠華から仕事用の携帯に電話が入ってきた。思った以上に深酒したのかそれまでぐっすり眠っていたわけだから、瑠華からの電話にビビッて思わず電話に出ると
『昨日はありがとうございました。明日の予定ですが、佐々木さんも誘いました』
え!佐々木もぉ??
不満が声に出そうになったが、
『三人で居るのが自然でしょう。誰かに何か見られても言い訳できるし』
「なるほど」
まぁ分からないわけではないが、俺はやっぱり二人きりで練習したかったわけで……
とは言えない。
瑠華を困らせるだけだ。
これ以上―――瑠華を困らせたくない。