Fahrenheit Ⅳ

新婦用の部屋へ入っていった瑠華を待つ間、俺も新郎用の部屋に入ってスーツに着替えた。部屋は広く白い壁と小さなシャンデリアが”いかにも”と言う雰囲気だ。広いフィッティングルームにはカーテンが掛かっていて、足元にはふかふかしか赤い丸い絨毯。何故かくっついてきた佐々木がカーテンの内側で着替えをしている俺に向かって外から


「今日はしっかり記録係させてもらいますね」と一人意気込んでいる。


あー、もー適当でいいよ。ダンスさえさまになってりゃな。


――――

――


しかし、


十字に走った横一線、クライマックスシーンでクイックステップで駆け抜ける瞬間、どうしても二人の息が揃わなかった。前は割と揃っていたように思えたがブランクがあったからかな。それとも本番を意識して緊張してるのか…


ハロウィンパーティー用のドレスは少しスマートなものでそれはそれは豪華で瑠華に良く似合っていたが、スタンダード向きではないし、


「一人で走ろうとしない!急がず!走らない!リード!リード!」


あ、相変わらずのスパルタ……


クイックステップはハロウィンパーティーでマックスと瑠華が躍ったわけではないが、これを取り入れようと案を出したのは俺。早い動きは場が盛り上がるだろうと提案したのだが……


それ以外は特に問題もなく、問題の段差でのターンや、ターニングロックからレフトホイスク、コントラチェックはほぼ完ぺき。


しかし時折瑠華に曲を止められてはホールドのチェックが入ったが。


「腕をもっと伸ばしてください」


「え…でもそれじゃ柏木さんがつらいんじゃ……」


「ホンモノのスタンダードでは女性は高いヒールを履いて足や腕を酷使しています。それはまるで拷問のよう。私の場合腕はもう少し上がります。ヒールを履いてない分腕に集中できるので気にしないでください」


撮影係の佐々木が俺たちの会話を聞いていたのであろう、ハラハラした面持ちで


「も、もう少し楽に行きましょうよ。二人とも今のままじゃ全然楽しそうじゃないですよ」と映像を取りながら手をわたわたと上下させている。


「楽しそうじゃない……?」


俺が目をまばたくと


「何ていうか……映画とかだともっと楽しそうなイメージがあるんですが……今はただ機械的に見えるっていうか…その”情熱”が足りないって言うか…」



「Passion」
「情熱……」



瑠華と俺の言葉が重なり思わず顔を見合わせた。

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